「PT・OTダブルライセンス、持ってたら最強じゃない?」
そんな言葉を、養成校時代に何度か耳にしました。両方の視点を持てる、転職に有利、年収も上がる……確かに魅力的に聞こえますよね。でも実際にダブルライセンスを取得した同僚の話を聞いて、僕の考えはちょっと変わりました。華やかなイメージと現場の現実には、思った以上のギャップがあったんです。600万円以上の費用と4年間の時間をかけてまで取る価値があるのか。その答えは、あなたがダブルライセンスで「何をしたいか」によって大きく変わってきます。
【結論】ダブルライセンスは「目的次第」で価値が変わる
最初にはっきり言っておきます。PT・OTダブルライセンスは、無条件で取得すれば人生が好転する魔法の資格ではありません。
僕の同僚でダブルライセンスを取得したPTがいます。彼は回復期病院で5年働いた後、夜間の作業療法士養成校に通い、4年かけてOT資格を取得しました。「これで年収上がるし、仕事の幅も広がる!」と意気込んでいたんですが……実際どうなったか。
結論から言うと、給料は月5,000円の資格手当が増えただけ。年間で6万円。4年間で600万円以上投資したことを考えると、正直「思ってたのと違う」という表情を隠せていませんでした。
ただ、彼がダブルライセンスを後悔しているかというと、そうでもない。訪問リハビリへ転職してからは「両方の視点で評価できるから、利用者さんにも施設にも重宝される」と言っていました。
つまり、こういうことなんです。
- 目的が「年収アップ」だけなら、費用対効果は低い
- 目的が「訪問リハビリで独立」「自費開業」なら、大きな武器になる
- 目的が「なんとなくスキルアップ」なら、別の選択肢のほうが賢い
あなたがダブルライセンスを検討している理由は何でしょうか?ここを明確にしないまま養成校に入ると、「こんなはずじゃなかった」となるリスクが高い。これが現実。
PT・OTダブルライセンスの具体的なメリット5つ
とはいえ、ダブルライセンスにメリットがないわけではありません。目的と活用法次第では、確かに強力な武器になります。
1. 患者さんを多角的に評価できる
PTは基本動作や歩行、運動機能を中心に評価します。一方、OTは日常生活動作や手の機能、認知面を中心に見る。両方の視点を持っていると、患者さんの全体像を一人で把握できるようになります。
例えば「歩けるようになったけど、家に帰ったらトイレで困る」というケース。PTだけの視点だと歩行能力の改善で満足しがちですが、OTの視点があれば「トイレでのズボンの上げ下げ、手すりの配置、座位バランス」まで見えてくる。これは確かに大きなアドバンテージです。
2. 訪問リハビリで重宝される
正直、ダブルライセンスが一番活きる場所は訪問リハビリだと思っています。
熊本の訪問リハビリステーションで働いていた知人から聞いた話ですが、ダブルライセンス持ちのセラピストは採用で明らかに優遇されていたそうです。理由は単純で、一人で幅広いニーズに対応できるから。
訪問リハビリって、利用者さんの状態や希望に合わせて柔軟に対応する必要がある。「今日は歩行訓練」「来週は調理訓練」みたいな感じで。両方の資格があると、シフト調整もしやすいし、何より利用者さんから「担当が変わるのは嫌」という声にも応えられる。
3. 管理職・教育職への道が広がる
リハビリ科の管理職って、PT・OT・ST全員をまとめる立場になることが多いですよね。ダブルライセンスがあると「両方の業務を理解している」という信頼感が生まれやすい。
養成校の教員になる場合も同様。臨床実習の指導で、PT・OTどちらの学生も担当できるのは強みになります。……まあ、教員を目指す人がどれだけいるかはわかりませんが。
4. 自費リハビリ・開業で差別化できる
自費リハビリ施設を開業する場合、「PT・OTダブルライセンス」という肩書きは確実に差別化要因になります。
競合が増えている自費リハビリ市場で、「元回復期病院のPT」だけでは埋もれてしまう。でも「PT・OTダブルライセンスで、運動機能から日常生活まで一貫してサポートできます」と打ち出せば、それだけで選ばれる理由になる。
5. 転職時の選択肢が増える
単純に、応募できる求人の数が倍になります。PT専門の求人にもOT専門の求人にも応募できる。地方だと特に、この選択肢の広さは心強い。
ただし正直に言うと、「ダブルライセンスだから年収が上がる」という求人は少ないです。資格手当が月5,000〜1万円つく程度の職場が一部あるくらい。過度な期待は禁物。
見落としがちなデメリットと注意点
メリットばかり並べてきましたが、ここからは見落としがちなデメリットと注意点についてお話しします。ダブルライセンス取得を真剣に検討している人ほど、この部分をしっかり読んでください。
取得までに最短4年・費用600万円以上かかる
まず現実的な数字の話から。PT・OTどちらかを持っている状態から、もう一方を取得するには最短でも3〜4年かかります。
僕の知人で、働きながら夜間の養成校に通ったケースを紹介します。彼は30歳でPT7年目のとき、OT資格取得を決意しました。
彼の費用内訳はこんな感じでした。
- 夜間養成校の学費:約500万円(4年間)
- 教材費・実習費:約50万円
- 通学の交通費:約40万円
- 収入減(残業ができなくなった分):約100万円
合計で約700万円。しかも臨床実習の期間は、日中に実習に行きながら夜は授業という地獄のスケジュール。「正直、何度も辞めようと思った」と言っていました。
この投資を回収できるかどうか。月5,000円の資格手当だと、単純計算で約140年かかる計算になります。……まあ、お金だけで判断するものではないですけどね。
資格だけでは給料に直結しない現実
ここ、本当に大事なポイントです。ダブルライセンスを取得しても、給料テーブルは変わらないことがほとんど。
病院の給与体系を思い出してください。基本給は経験年数と職種で決まり、資格手当はあくまでおまけ。ダブルライセンスだから基本給が上がるという仕組みの職場は、僕の知る限りほとんどありません。
「でも、スキルが上がれば評価されるでしょ?」と思うかもしれません。心当たりありませんか?そういう期待。残念ながら、日本の医療機関の多くは「できることが増えた」ことを給与に反映する仕組みになっていないんです。
どちらも中途半端になるリスク
これは意外と語られないデメリット。両方の資格を持っていても、実際の現場では「どちらかの業務しか任されない」ケースが多いんです。
例えば回復期病院に「PT・OTダブルライセンス」で就職したとします。でも実際の業務は「PTとして」配属されるか「OTとして」配属されるかのどちらか。両方の業務を同時にやることは、人員配置の都合上ほぼありません。
すると何が起こるか。片方のスキルだけがアップデートされ、もう片方は卒業時点で止まったまま。10年後には「OT資格は持ってるけど、現場で通用するレベルじゃない」という状態になりかねない。
あなたの場合、両方の資格を本当に活かせる環境はありますか?ここを冷静に考えてみてください。
【データで見る】ダブルライセンス取得者は全国に何人いる?
ダブルライセンスの価値を考える上で、「どれくらい希少なのか」を把握しておくのは大切です。
2023年時点で、日本理学療法士協会の会員数は約14万人、日本作業療法士協会の会員数は約6万人。ただし、これは会員数なので実際の資格保有者はもう少し多いと推測されます。
では、PT・OT両方の資格を持っている人は何人いるか。残念ながら公式な統計データはありません。ただ、養成校の関係者に聞いた話では、年間で両方の国家試験を受験する人は「数十人程度」とのこと。
累計で考えても、全国で数千人程度ではないかと推測されます。約20万人いるリハビリ職の中で数千人。割合にすると1〜2%程度。
これは確かにレアです。
熊本県内で実際にダブルライセンスを持って活躍している人を僕は3人しか知りません。一人は訪問リハビリステーションの管理者、一人は自費リハビリ施設の経営者、一人は養成校の教員。共通しているのは、「ダブルライセンスを活かせる環境を自分で選んでいる」という点。まさに戦略的。
逆に言えば、「ダブルライセンスを活かせない環境」にいると、ただの自己満足で終わるリスクもあるということです。
ダブルライセンスより先に検討すべき3つの選択肢
ダブルライセンス取得を考えている人に、一度立ち止まって検討してほしい選択肢があります。目的によっては、こちらのほうが費用対効果が高いかもしれません。
認定・専門理学療法士の取得
「専門性を高めたい」という目的なら、認定理学療法士や専門理学療法士のほうが効率的です。
取得にかかる費用は、講習会や学会参加費を合わせても数十万円程度。期間も1〜3年で取得できます。しかも、その分野での専門性をアピールできるので、転職時にも評価されやすい。
例えば「脳卒中認定理学療法士」と「PT・OTダブルライセンス」、回復期病院の採用担当者はどちらを評価すると思いますか?正直、前者のほうが「即戦力」として見られる可能性が高いです。
他職種の資格(ケアマネ、福祉住環境など)
キャリアの幅を広げたいなら、リハビリ職以外の資格も検討してみてください。
僕の友人のOTは、地方の老健に転職して、東京時代より生活の質がめちゃくちゃ上がったと言ってました。家賃が半分以下になったのが大きいそうです。その友人が取得したのはケアマネジャー資格。年収も40万円ほど上がったとか。
ケアマネジャーは受験資格を満たしていれば、働きながら取得できます。費用も数万円程度。福祉住環境コーディネーターや呼吸療法認定士なども、目的に合えば十分なスキルアップになります。
今の職場で経験を深める
これ、意外と忘れがちなんですが……資格を増やすことだけがキャリアアップではありません。
同じ職場で10年間、特定の分野を深掘りした人と、途中で4年間養成校に通ってダブルライセンスを取った人。臨床スキルの差は歴然です。
「自分は今、何が足りないのか」を冷静に分析してみてください。足りないのは資格ですか?それとも経験ですか?この問いへの答えが、あなたの次のステップを決めるはずです。
よくある質問
PT・OTダブルライセンスを取得するには何年かかる?
最短でも3〜4年かかります。PT取得後にOT養成校(または逆)に通う必要があり、昼間部なら3年、夜間部なら4年が一般的です。夜間部なら働きながら通うことも可能ですが、臨床実習期間は日中に実習が入るため、職場の協力が不可欠です。体力的・金銭的負担は想像以上に大きいので、事前に生活シミュレーションをしておくことを強くおすすめします。
ダブルライセンスがあると年収はどれくらい上がる?
残念ながら、劇的な年収アップは期待しにくいのが現実です。資格手当として月5,000〜1万円程度つく職場が一部ありますが、基本給が上がるケースはほぼありません。年間で6〜12万円のプラスが相場です。ただし、ダブルライセンスを活かして訪問リハビリや自費リハビリに転職すれば、環境次第で年収50〜100万円アップも可能です。資格そのものより、資格をどう活かすかが重要。
ダブルライセンスが活きる職場はどこ?
訪問リハビリ、自費リハビリ施設、リハビリ特化型デイサービスで特に重宝されます。これらの職場では、一人で幅広いニーズに対応できることが評価されやすいからです。逆に、急性期病院や大規模回復期病院では、PT・OTの業務が明確に分かれているため、ダブルライセンスの恩恵を感じにくいかもしれません。地域・在宅領域を目指す人にとっては、間違いなく武器になります。
PT・OT以外にダブルライセンスで取るならどの資格がおすすめ?
目的によって最適解は変わります。マネジメント志向ならケアマネジャー、住環境整備に興味があるなら福祉住環境コーディネーター、呼吸器分野を深めたいなら呼吸療法認定士がおすすめです。費用対効果で考えると、これらの資格はPT・OTダブルライセンスより圧倒的に効率的。取得期間も数ヶ月〜1年程度で済むものが多いので、まずはこちらから検討してみるのも一つの手です。
まとめ
PT・OTダブルライセンスは、目的が明確な人には強力な武器になります。ただし、600万円と4年間を投資する価値があるかは、あなた自身のキャリアプラン次第。「なんとなくスキルアップしたい」程度の動機なら、他の選択肢のほうが賢明かもしれません。まずは「自分が何をしたいのか」を言語化するところから始めてみてください。
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この記事を書いた人
富永康太(元理学療法士)
臨床経験10年以上。現在はDOPグループ代表として、リハビリ職の転職・キャリア支援に携わる。「給料が安い」「転職が不安」——そんなPT・OT・STの悩みに、現場を知る人間として本音でお答えします。
